1. 基本認識
足許、世界の社会・経済を巡る環境は大きく変化しており、かつ先行きの不確実性が非常に高い状況にある。すなわち、社会情勢については、ロシアによるウクライナ侵略やイスラエル・パレスチナ情勢等を受けて地政学リスクが高まっているほか、先進国においても、国内格差の拡大等を受けて自国利益や勢力拡大といった保護主義的な動きがみられており、従来の国際秩序は転換点を迎えている。経済情勢についても、コロナ禍以降の急激なインフレは収まりつつあるものの、グローバル化の潮流変化を受け、2010年代までのディスインフレ傾向からは転換しているように見受けられる。更に、生成AI(人工知能)に代表されるICT(情報通信技術)の一段の進化は、社会・経済のあり方を大きく変える要素となっている。そのうえで、世界経済は、国・地域別にバラツキはあるものの、総じてみれば緩やかな成長を続けており、先行きも、国際機関によればこうした緩やかな成長が続く見通しにある。
日本経済も、当面、海外経済の成長を受け、潜在成長率を上回る成長を続ける見込みにあり、そうしたもとで、鹿児島経済も緩やかな回復を続ける見込みにある。ただし、日本では、コロナ禍からの社会・経済活動の正常化が進み、インバウンドも含めて需要が高まっているもとで、為替円安もあって長引く原材料やエネルギーのコスト上昇に加え、急速に顕在化してきた人口減少や高齢化の進展を受けた人手不足といった事項への対応が重要な課題となっている。この点、鹿児島では、全国を上回るペースでの人口減少が続く中、こうした課題はより切実なものとなっている。一方で、鹿児島については、全国和牛能力共進会での鹿児島黒牛の「和牛日本一」獲得、「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録、荒茶生産量日本一等の形で、これまでの経済活動で培ってきた「実力」が認知を得るようになってきている。また、仙厳園駅の開場等のインフラ面の整備が進むもとで、今後、鹿児島に対する観光面も含めた需要が高まることも期待される。
このような社会・経済の環境を踏まえると、鹿児島においては、離島も含めた豊かな自然、荘厳な歴史・文化、豊かな食といったこの地ならではの魅力を活かしつつ、産業の更なる活性化に向けた取組みに注力することが必要となる。この点、新たな産業の創出も含め、魅力的なコンテンツを更に増やすためには、鹿児島のまちとしての魅力を高め、交流人口を増やす取組みが重要となる。また、深刻な人手不足に対応する必要性を踏まえると、こうした取組みに加え、先端技術も含めたICTの活用、省力化のための設備投資、人材の再教育(リスキリング)・育成といった、労働生産性を向上させる取組みを推進することが重要となる。この他、鹿児島に対する需要を高める観点からは、インバウンド向けも含めて、鹿児島の質・量ともに豊富なコンテンツを効果的に発信し、着実に売り込むことで認知度を更に高める取組みも重要となる。
なお、トランプ2.0のもとでは、ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)といった国際潮流に沿って従来実施されてきたグリーン政策やDEI(多様性・公平性・包摂性)推進の巻き戻しの動きが進められており、これが国際的にも相応の影響を及ぼしている。もっとも、いずれにせよ地球の環境資源には限りがある中、とりわけエネルギー自給率が低い日本においては、環境負荷を軽減し、エネルギー効率のよい社会・経済を追求する取組みの重要性が揺らぐことはなく、むしろ、足許のエネルギーコストの上昇等も踏まえると、その経済合理性が高まっているとも考えられる。また、ダイバーシティの推進も、深刻な人手不足のもとでの労働力の確保・繋留はもとより、創造性や柔軟性の発揮を通じた企業価値の向上や、ひいては地域社会の活性化という観点からも、引き続き重要な取組みとなる。
これらの取組みを適切に進めていくうえでは、足許のインフレを含めた環境変化を踏まえると、従来ともすると選好されがちであった「様子見」や「現状維持」はむしろリスクのある選択となり得るため、機を捉えて果断に変化する必要性が高まる。ただし、「言うは易く行うは難し」とも言われるように、その実行は必ずしも容易でないと見込まれる中、とりわけ足許のように先行きの不確実性が高い状況下では、各方面にアンテナを張り、様々な知見を蓄えることがこれまで以上に重要になる。
以上のような基本認識のもと、鹿児島経済同友会は、産業活性化、交流人口創出、教育・人材育成、環境・エネルギー、先端技術研究、ダイバーシティの各委員会を設け、諸課題の検討・提言に引き続き取り組み、鹿児島経済の振興・発展に貢献していく。